2013-10-05

【映画】風立ちぬ レビュー

行こう行こうと思いながら後回しになっていたジブリ映画最新作にして宮崎監督の引退作品(?)ですが、仕事の合間に時間があったのでようやく見ることが出来ました。

風立ちぬ

原作・脚本・監督:宮崎駿
上映時間:126分

レビュー

最初に言っておきますが、僕はジブリのファンです。ナウシカ、魔女の宅急便、紅の豚あたりは本当に傑作だと思っています。…が、最近の作品にはちょっとがっかりさせられることが多く、実は今回の映画も、最初は期待していたのですがだんだん情報が出てくるに従って期待がしぼみ、映画館にもなかなか足を運べませんでした。

ストーリーはあまり複雑なものではなく、若き日の堀越二郎が、素晴らしい仲間と、上司と、家族と、最愛の妻に囲まれて、飛行機の設計に打ち込むというものです。娯楽映画の割に、大きな事件やカタルシスを得られるような展開はあまり多くなく、淡々と物語が進んでいく(と言っても、個々のエピソードの質が高く、単調な感じは与えない)のが印象的でした。

映画にしては比較的長めの尺ですが、扱う内容の量が多く、場面転換が頻繁に入ります。が、その説明をナレーションや台詞などではなく、風景や印象的な1枚絵に説明させてテンポ良く進んでいくのが良かったです。この辺りはさすが宮崎監督といった感じ。

ストーリー自体は、飛行機開発と、二郎と菜穂子の恋物語という2本の柱を軸に進んでいきます。飛行機開発についてはあくまで写実的に(紅の豚ほどデフォルメもされていない)、恋物語についてはややファンタジック(少女漫画的とでも言うのでしょうか)に描かれていますが、その上にさらにカプローニの夢の世界という幻想がかぶせられているので、一つのまとまった作品になっていたように思います。またここは批判もあるところのようですが、個人的には2本の軸のバランスは均衡が取れていたように感じました。後半は恋物語の方が前面に出てますけど、いいんだよ、男の動機はいつだって女に格好つけたいなんだから(あくまで私見です)。

とはいえ残念なところも。
まずこれはさんざん言われていることですが、やはり主人公の声は技量不足と言わざるを得ないでしょう。別に本職の声優を使わないのはいいのですが(今回も黒川課長役の西村雅彦さんや、カプローニ役の野村萬斎さんは良かったです)、あまりに感情が込められてなさすぎました。二郎はあまり感情を表に出すタイプではないので、通常の場面はまぁ我慢出来るのですが、だからこそ感情が表に出るシーンの演技は大切だと思うんですよね…。本当にオーディションの結果、庵野さんが最高だと思ったのであれば何も言うことはありませんが。

あと、全体としてみればやはり大人向けの映画だったように思います。これは一概に悪いというより好みの問題だと思いますけど、僕がアニメ映画に求めているものとは違ったかな…。最後も予想どおりだったとはいえ、やや悲しい結末でしたし(とはいえ悲劇というわけではない)。

ただ、この映画が左翼的右翼的だとか、戦争賛美だとか言われているのは全然当たらないと思います。むしろ、戦争の是非に関する論議が意識的に排除されているように思いました。敗戦についても、零戦のゆくえについても、たった一言のセリフで語られているだけですし、戦闘シーンもほとんど登場しません。世界から10年単位で遅れる日本が、技術という武器で強大な敵に戦いを挑み、そして負ける、というごく当たり前の事実を当たり前に描いています。あくまで前述した2本の軸から離れることなく、また宮崎監督のいつものような説教臭さもなく、このテーマを描ききったことには拍手を送りたいと思いました。

そのようなわけで、個人的には、「小粒の良作」という評価です。期待していたものよりはるかに上質なエンターテインメントでした。ユーミンの歌も心に残りましたね。

余談ですが、劇場CMで流れていた「清洲会議」はちょっと面白そうだった。

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コメント & トラックバック

>僕はジブリのファンです。ナウシカ、魔女の宅急便、紅の豚あたりは本当に傑作だと思っています
 宮さんが「国民的映画監督」になる前の方が好きなクチですね。私も一番いいのはトトロあたりかな。

>風景や印象的な1枚絵に説明させてテンポ良く進んでいくのが良かったです
 あ、この辺の説明上手いな。私もこう書ければな。

>カプローニ役の野村萬斎さんは良かったです
 野村さんは以前昭和天皇を演じた事があって、それが結構「天皇っぽくて」高く評価してたのですが、今回も満足させてくれました。

>やはり大人向けの映画だったように思います
 難しいところですが、宮さんが今までの体裁を捨てて「はっちゃけた」作品だとは言えると思います。

>この映画が左翼的だとか
 ん?むしろ右翼的、保守的と言われてるんじゃないすか?何にしろ当たってないよね。

ほんとだ、右翼的の間違いですね。
未だにこの手の話は右左を間違えがち。

>「国民的映画監督」になる前の方が好きなクチですね
 と書いてしまいましたが、加齢によって印象が異なってきただけかもと後で気づいた。宮崎監督の転機となった、もののけ姫観た時丁度二十歳になってました。

 この言い方はyukkun20さんノンポリっぽいですね。それが一番マトモですよ。私の様に偏ってると生きるのが辛い(苦笑)。

ノンポリの中のノンポリ、それが私です。

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