2015-06-10
旅行中に読了しました。まめたん以来のハヤカワ×芝村作品です。
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宇宙人相場
著者:芝村裕吏
レーベル:ハヤカワ文庫JA
価格:680円
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あらすじ
高野信念は、趣味が高じてオタクショップの経営者になってしまった35歳。偶然であった病気がちの女性・妙と交際しているうちに、彼女の父親から彼女と過ごす時間を増やすためにデイトレードを進められ、在宅個人投資家に転職した。少しずつ取引を増やしていくうちに、金融の世界に魅せられていく高野。しかしある日、サーバーの事故で多額の損を出してしまう。その事故と、時折届く、人間を観察しているかのような謎のメール―二つの関連性に気づいた高野は、一つの大きな勝負に出る。一方その頃メールの主も、高野に接触しようと動き出していて―
感想
芝村氏の最新作です。芝村氏といえば戦争物(それもドンパチ中心というより、戦争力学や準備段階に力点を置いたもの)という印象ですが、今回は全く異なる、金融工学をテーマにした話です。
僕は金融取引には興味がない人間でしたが、いろいろと勉強になりました。主人公が手がけるのは「スカルピング」という、「1円値が上がったら売れ、5分値が動かなければ売れ」という、短期間のうちに大量の売買を行う取引です。とにかく多量の取引を行うため、先を読むというよりは反射神経が求められる取引で、元々高野も反射神経の良さに目を付けられて妙の父親から転身を勧められます。集中力の関係上1時間くらいしか取引出来ませんが、その間の稼ぎで生活費を捻出し、余った時間を妻との時間に充てる、というやり方で人生を回していこうとするわけです。最初はスカルピングの基本に沿って、そのうち元手を増やし、レバレッジを掛け、と大きな取引に進んでいきます。もちろん失敗することもありますし、展開的にはご都合主義の部類に属する話でしたが、これまで知らない世界を垣間見れて楽しめました。
また相変わらず人間の心理描写がうまい。特に取引がうまくいっている時は何でも前向きに考えられるのに、大損を出した時は顔に出さないようにしているつもりがいろんなところに影響が出て、全てが悪い方向に転がってしまう、という中盤あたりの展開は色々身に覚えがありすぎて、さすが芝村氏だなーと。
もちろん、芝村氏お得意の、面倒くさいヒロインも健在ですよ。今回は病弱キャラという割と(氏にしては)珍しい設定ですけど、出てきて1ページで「うわ、この娘めんどうくさいわ」と思わせるところはさすが。 そして最後には、そんな娘に振り回される高野や父親に感情移入してしまうという話でした。是非家族を養っている夫や父親の皆さんに読んでいただきたいです。
「とにかく、ほっとかない」
「別に、昨日今日はたまたま調子が悪かっただけです。たまたまです。それに高野さんだけが私を介抱してくれるわけじゃないですし」
「いや、ろくでもないのがいるかもしれないだろ」(中略)「そもそも介抱されなかったらどうするんだ」
「じゃあ、ずっと病院で寝たきりになれと言っているんですか」
「そんなことは言ってないだろ」
※58ページより引用
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2015-05-04
こういう本ってラノベの括りに入れていいんですかね。
マージナル・オペレーション FⅡ
著者:芝村裕吏
レーベル:星海社FICTIONS
価格:1200円
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あらすじ
停戦後、日本の高校に進学したサキ。これまでとは全く違う世界に順応しながらも、トリさんと呼ぶ父アラタとの生活を思い出す日々。そんな中、三者面談の日に起きたささやかな事件を描く「私のトリさん」
アラタの語学の教師でもあるホリー。彼女の揺れる女心と、不器用に彼女を守ろうとするアラタの人間関係を描く「新しい首輪」
停戦後、アラタから学校に通うよう求められるも、どうしても応じられないイブン。新天地に旅立つ仲間は、彼の狭い世界の殻を破ることが出来るのか―「若きイヌワシの悩み」
徳島にやってきたアラタが突如失踪。子供たちはパニックになりながらも彼の行方を捜し始める。まめたんも登場する「子供使いの失踪」
の4編からなる短編集です。いずれも本編終了後の世界を描いています。
感想
戦争が一段落して、子供達に新たな生活を与えようとするアラタの奮闘を、第三者目線で描いています。
戦争物大好きな芝村先生ですが、むしろ戦争以外の場面を描いている方が面白いんですよね。特に人間考察の部分は、自分と波長が合う気がして面白いです。「教育」の存在意義とか、「合理的な人間」観とか。
「他人を高く評価しすぎなのよ。あんたは。そして自分を低く見過ぎている。」「あなたの経歴まで考えて皆が動いていると思ったら大間違いだから。いい?人間はまずあなたの活躍を見て、あなたの部下の数と武装を見て、それであなたが脅威かを判断する。あなたの経歴から考えたりはしない」
「合理的じゃない……」
「あなたが合理的すぎるの。異常なくらいに。瞬間で一番合理的な考えが見えているでしょ」「そういう風には周りは見えてないのよ。まともな人間はね、瞬間で合理的な判断なんて見えてないし、あなたが見えているのが当然として振る舞えば、反感を持つの。」
※81~82ページより引用
という下りは刺さりました。僕も仕事上、人間は全て「瞬間で一番合理的な考えが見えている」っていう前提で話を組み立てて押しつけるからなぁ。もちろんそれが説得力があるからなんですが、楽だからという側面もあります。もっと悪いことに、自分が考える「合理的な考え」が、他の人の考える「合理的な考え」とずれている可能性すらある。
他にもキャラクターがしゃべる、国家の持つ戦争観観も中々面白い。
- 中国…合理的で、利害が一致すれば昨日までの敵とも手を組める。
- 日本…まとめて殺したり被害を与えたりはしない。ターゲットは慎重に選ぶ。外国に対する影響力は低く、輸出と公共工事とお金くらいしかカードがない。
- アメリカ…強大な軍事力があるため、民主主義最優先。軍事的目的ではなく、政治によって軍事行動が決まる。
とか。
それから、第4話に登場した「まめたん」の制作秘話は、芝村先生の「富士学校まめたん研究分室」をご覧下さい。こっちも面白いよ。
[関連記事]【小説】富士学校まめたん研究分室 レビュー | Y.A.S.
さて、今度こそマジオペは終わりなので、つぎは日露戦争時代を舞台にした同じ作者の「遙か凍土のカナン」でも読みます。
表紙のキャラは手前からサキ、イブン、明言は無いけどハキム、ホリーかな。
イラストのしずま先生が、艦これのキャラデザしてることに今さら気づきました。つーか島風のあのコス考えたのが…
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2015-02-19
このまま永遠に読み終えられないんじゃないかと思ったけどついに終わったー!
マージナル・オペレーション F
著者:芝村裕吏
レーベル:星海社FICTIONS
価格:1150円
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あらすじ
アラタの護衛を務めるマフィアこと梶田。彼は今タイでアラタの護衛をしていた。ただ彼はビジネスとして戦っているわけではなくて―「マフィアの日」
最初にアラタが救った24人の子供の一人、イブン。彼の目から見たアラタの姿を描く「父について」
ラノベ作家と編集者が、ふと声をかけた赤毛の少女のためにひどい目に遭う「赤毛の君」
アラタの取材を申し込んだアメリカのジャーナリスト、イーヴァ・クロダが彼との接触を通して正義について考える「ミャンマー取材私記」
ジブリールと二人旅しながら、次なるビジネスを模索するアラタを描く「チッタゴンにて」
の5編からなる短編集です。
感想
本編はアラタ視点でおおむね展開していたのですが、今回は第三者視点で描かれていて、これまでとはまた違うアラタの姿が見られたのは良かったですね。
個人的に今回一番面白かったのは「ミャンマー取材私記」ですかね。思い込みで取材しようとするジャーナリストが事件に巻き込まれて真実の一端に触れる、というのは割とよくある話しではあるもののやはり王道のおもしろさがありますね。でもこれからもアラタは命を狙われ続けるんだろうなぁ。実際設定ではこの話のあと行方不明になっちゃったようですし。彼とジブリールの物語が再び描かれる日は来るんでしょうか。ちょっと寂しい。
そのジブリールですけど、今回は脇役が多く、唯一主役級の「チッタゴンにて」でもあまりアラタとの関係が進展しなかったのはちょっと残念。いや、アラタがジブリールに向ける視線がちょっと変わったのは分かるんですけど、ちょっと過ぎて物足りないんだよー。普通にキャッキャウフフしてもいいのよ。しかしそのオチが、傭兵業を配船したあとに始めようと思っている廃船の解体事業が赤字にならないようにするため、鉄鉱山と製鉄所を攻撃して鉄の値段をつり上げておく」という身もふたもない内容だったのはちょっと面白かった。子供のためなら何でもするのはさすが。
さて、これでマジオペは終わりなので、つぎは日露戦争時代を舞台にした同じ作者の「遙か凍土のカナン」でも読みますかね。こっちも既に4巻まで出ているので、実際読むのはいつになるやらですが。
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2014-03-10
ハヤカワ文庫なので、電車の中でカバーなしに読んでも恥ずかしくないやい!
富士学校まめたん研究分室
著者:芝村裕吏
レーベル:ハヤカワ文庫JA
価格:720円
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あらすじ
陸上自衛隊富士学校勤務の藤崎綾乃は、自分でも認める「めんどくさい女」。セクハラ騒動に巻き込まれて閑職に飛ばされた彼女は、辞めさせられるまえに自分の価値を周囲に分からせることが最大の復讐になると考え、得意とするロボット戦車の研究開発を開始する。なぜか彼女に親切な同僚・伊藤信士が、自分の苦手とする部分を引き受けたこともあり、上層部に承認されたロボット戦車の研究はいよいよ目標に向けて進み始める。しかしその頃、朝鮮半島の情勢が緊迫化。まめたんと名付けられた新型ロボット戦車の開発が急がれる中、突如富士学校に謎の組織が攻撃を仕掛けてきた!―
感想
芝村氏の最新作です。前作(といっても特につながりはない)の「この空のまもり」(yukkun20の感想はこちら)と同じような感じで(というより氏の作品は大体そんな感じなんですけど)、戦闘シーンは割と淡泊で、むしろ戦闘に至るまでの流れを非常に丁寧に描いた作品です。
後書きで書かれているとおり、一応自衛隊が舞台でロボットも現代科学の枠に収まっている代物(といっても多分現実世界よりはちょっと発展している)なのでリアルに近い世界観なのですが、物語の盛り上がりを重視するためにフィクションも大量に投入しているそうです。といってもぼくにはその境目はわからず、普通に楽しめました。
主人公の藤崎さんは、技師としては非常に優秀な方なんですけど、作中でも「この人頭よさそうだなー」というシーンが随所にちりばめられていて、読んでいて勉強になります。たとえば彼女は退職までの期間になにかの研究をしようと思い立つんですが、その後の検討順序が、
大まかなスケジュールを決める→得意なことを生かしてロボット戦車を考えてみようと決める→現在までのロボット開発の歴史を振り返り、現時点でのトレンドを考える→現場、上層部、政治のどれが求めているものをつくるかを決める→上層部が求めているものを分析する→それに沿ったロボット戦車の基本コンセプトを決める→その分野の先行研究を学び、それを発展させるアイデアを模索する
みたいな感じで、しっかりしているんですよね。その後も大砲を搭載するのか、足回りはどうするのか、操縦はどうするのかなど細かい点を考えて、今度は上司を説得し、上層部を説得してもらってプロジェクトとして立ち上げて…みたいなことが延々描かれています。自分はサラリーマンをした経験がなく、企画を立てるというのが極端に苦手でもあるので、非常におもしろく読めました。
主要な登場人物は、主人公の藤崎さんと同僚の伊藤氏くらいしか登場しないのですが、このふたりの人間模様も実におもしろい。これについては語ってしまうと興がそがれると思うので、是非読んで確認してみてください。いつもの芝村作品が好きな方なら(特に「この空のまもり」を楽しめたのなら)、これも肌に合うと思います。
しかし芝村氏はめんどくさい女の人を書かせたら天下一品だなぁ。
「それと、外では名前で呼んでくれ」
彼はドアを開けながらいった。
「お願いですか、命令ですか」
「要請だ」
私は10秒考えた。右下を見る。
「いいですけど、私は何か貰えるんですか。それで」
我ながらひねくれた回答だった。言った後で赤面した。彼は頷いた。
「分かった。僕も君を名前で呼ぼう」
「力いっぱいやめてください」
※58ページより引用
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2014-03-05
ようやく最終巻まで到達。次回作もすでに購入していますが、読むのはいつになることやら。
マージナル・オペレーション 05
著者:芝村裕吏
レーベル:星海社FICTIONS
価格:1250円
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あらすじ
アラタたちに煮え湯を飲まされ続けた中国軍は、ついに4万規模の陸軍をミャンマー国境に派兵。アラタは敵が大軍であることに着目し、輸送路を攻撃し敵を食料切れで撤退に追い込もうとする。それと同時にスポンサーに資金援助を求める。当初はアラタたちを強化することで中国に本気を出させ、ミャンマー軍を戦争に引っ張り出すことで中国の戦力をそごうと考えていたスポンサーたちはそれに協力するが、やがてミャンマー軍が中国軍を恐れて停戦交渉を始めると、あっさりと手を引いてしまう。
そんな中でもアラタが率いる少年兵は中国軍へ連戦連勝。逆恨みしたキシモトによる襲撃もあっさりと退ける。そんなアラタの悩みは、スポンサーが逃げてしまったせいで子供達の生活を維持できなくなるかもしれないということ。ミャンマー軍の裏切りを防ぎ、中国軍の南下を阻止し、ついでに再就職を保証してもらうため、ついに最後の戦いが幕を開ける―
感想
というわけでいよいよ最終巻になりました。前回鍛えに鍛えた子供たちを、アラタが見事なオペレーションで導きながら連勝を重ねていくところは、ややご都合主義的な展開(味方側の損耗が極端に少ない)ながらもおもしろく読めました。今回も登場人物たちがそれぞれの思惑に従って動いていて、結果的に敵になったり味方になったりと人間関係がめまぐるしく変わるのが楽しかったですね。最終的にこの戦いが元で、中国の評価が下がり、世界の勢力関係が大きく変化した、というオチ(つまり架空戦記なわけですが)もすっと飲み込めたように思います。そういえば最後に名前が出てくるイーヴァ・クロダはガン・ブラッド・デイズに登場したキャラですね。
そしてすっかり忘れられた(訳ではないのですが)ソフィに代わり、今回もジブリールのかわいさはとどまるところを知りません。ようやくアラタもジブリールの気持ちに真剣に向き合うようになってくれて一安心でした。今回はカラーイラストが3枚ありますけど、そのすべてに絡んでいるというヒロインぶり。特に序盤の少しすねたジブリールがよかったです。
「ジブリール」
「……なに?」
目が点になった。ジブリールは恥ずかしそうに目をそらした。
「なんでしょうか」
「あ、ああ、そうか、言い間違いか、ははは」
(中略)
「タメ口を、きいてみたかっただけです。すみません。もう絶対一生しません」
※46~47ページより引用
というわけで、派手なドンパチはなく、戦闘描写は淡々と進められる感じでしたけど、オペレーターが少年兵を操って戦うという変わった視点での戦記として楽しめました。コミカライズもされているようなので、興味のある方は一度目を通して見てはいかがでしょうか。
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2014-02-09
既にだいぶ前に最終巻(5巻)が出ているというのに今さら。
マージナル・オペレーション 04
著者:芝村裕吏
レーベル:星海社FICTIONS
価格:1250円
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あらすじ
2000人の少年少女兵を率いるアラタは、ミャンマー北部の国境地帯で、ミャンマー軍に雇われて中国軍と戦っていた。子供たちを養うために、子供たちに命を懸けさせることに矛盾を感じるアラタ。しかしそんな矛盾を押し流すように現実は進んでいく。アラタの指揮は水際だったものだったが、ついに中国は正規軍である人民解放軍と投入し、豊富な兵器であっという間に戦局を硬直状態に戻してしまう。先の戦いで精神を病んでしまったソフィアの治療、懐かしい女性との再会、そして思春期まっただ中のジブリールとの関係。問題は山積みながらも、一つずつ解決していこうとするアラタ。敵の作戦意図を挫くための強襲作戦の成功後、ついに中国軍の本格的な進行が幕を開ける。
感想
今回は戦争物というよりはその合間にアラタたちが何をやっているか、という話がメインですね。廃村を前線基地にして子供たちを訓練したり、友軍のはずのベトナム軍の蛮行に怒って勝手に追い払ったり、スポンサー様のご機嫌伺いしたり。もちろんフィクションだと思うんだけど、単に「戦争に勝てばいいよね」という話になっていないところにリアリティがあります。アラタは戦争をどう上手に終わらせるかを常に考えて動いているのが面白いし、単純な英雄譚にならなくて面白いんです。
そして言うまでもなく今回はジブリール大活躍です。主にヒロイン的な意味で。アラタがいくら何でも色恋沙汰に鈍すぎるので逆にジブリールの方がかわいそうになってきました。ジブリールが不機嫌だから一緒に食事をしてあげてくれとほかの子供たちに頼まれて、なんとかジブリールを誘ったものの、なぜかほかの女の子にも同席を勧め、そして内心で
ジブリールは心優しい子なので、まあきっとサキにも優しくするだろう。サキがいれば変な雰囲気にもならないだろうし、これは僕の作戦勝ちというものだな。
※263ページより引用
なんて思っているヤツは石を投げられて当然です(もちろんジブリールの機嫌は直りませんでした)。
次巻はついに最終巻ですね。既に入手はしているので、来週までに読もうと思います。
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2013-09-30
久々に小説レビュー。旅行中に読んだ、アナザー・プリンセスのノベライズです。
ガンパレード・マーチ アナザー・プリンセス
著者:芝村裕吏
レーベル:電撃ゲーム文庫
価格:650円(税別)
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あらすじ
熊本で戦っていた戦車随伴歩兵小隊小隊長の小山美千代は、廃墟にたたずむ丸腰の少年、秋草一郎技術万翼長に出会う。わけのわからないままその指揮下に入った小山は、どこか浮世離れした秋草に連れられて辛くも敵の侵攻阻止に成功する。
その翌日小山小隊の属する戦車部隊は、戦いで失った戦車の代わりに人型戦車を受領することになった。秋草の所属する情報分析専門の部隊、通称二度寝天国小隊と共に戦う内に、秋草に惹かれていく小山。そんな中、5121小隊の異常なまでの強さを目の当たりにした二度寝天国の実質的指揮官、神楽はその強さの理由を探るため秋草を5121に潜り込ませる。しかし敵の大規模攻勢が予想されるにも拘わらず、小隊の強さの理由は判明しない。焦る神楽は舞と取引をし、熊本城に敵を集めて一掃するという作戦を立てるが、その目的は敵もろとも一族を裏切った舞を抹殺することにあった。それと知らない秋草は、戦いの中で速水を舞と共に死なせるか、神楽に背いて小山を助けるかの二者択一を迫られるのだが―
感想
意外と漫画のシナリオそのままでビックリしました。漫画版では中途半端に終わった、小山と秋草の恋物語もはっきりした形で進展していて安心です。漫画版ではよく分からなかった結末部分もはっきりしましたし…。榊ガンパレではあまり登場しない、参謀部の活躍ぶりに焦点が当てられていて、個人的には面白く読めました。芝村節が好きな人には十分お勧めします。
ただ神楽がほぼ完全な悪役で終わってしまったのはちょっと残念だったかな。
解説
この小説は、ガンパレのゲームとも、榊ガンパレともやや乖離した設定が使用されています。ガンパレの世界をある程度深く知っているとわかるネタなども含まれているので、僭越ながら簡単な解説を。ただし僕もさほど世界観に詳しいわけではないので、より詳しい方からの突っ込みもお待ちしています。
- 深澤(正俊)(28ページ)
ガンパレード・マーチ 緑の章に登場する同名の人物と同一人物。彼のセリフに登場する「金城のアネゴ」(189ページ)とは同じく緑の章の登場人物「金城美姫」、「源さん」(171ページ)とは「源健司」のこと。
- 宮石忠光(86ページ)
ゲーム版や榊ガンパレでは「若宮康光」に当たる人物。
元々この世界の人間は全てクローン(なので人体組成からして異なる。「骨の材料」に「プラスチック」というルビが振られている(146ページ)もそのため)。クローンは人間同様赤ちゃんの姿で生まれ、成長するが、中には成体クローンという、はじめから大人の姿で作られたクローンが存在する(主として戦闘用のため)。
宮石は若宮型と言われる成体クローンで、善行の家令。他の同型との区別のため「善行忠孝」と「石津萌」(石津は善行に一時保護されていたため)から一字ずつを取って、宮石忠光と改名している。
- 騎魂号(91ページ)
ゲームや榊ガンパレでは士魂号複座型といわれている機体のこと。騎魂号は愛称。
- 速水厚志(110ページ)
本当の速水厚志は秋草の友人。彼は徴兵された後に、何らかの理由により死亡している。
ゲームや榊ガンパレに登場する速水厚志は、両親が幻獣共生派だったため、ラボに送られ人体実験のモルモットにされていた。しかし研究員などを殺害して逃亡。その途中で死んだ本当の速水の学籍を乗っ取って、速水厚志を名乗るようになった。秋草が怒っているのはその事。
- 菊池「明日には子供の申請とか出す勢いじゃ?」(112ページ)
上記の通り人間は全てクローンのため、自然生殖能力は無い。そのため子供は申請することで交付される。余談だが、舞だけはクローンではなく、本当の人間である。
- 對馬「秋草一郎は竜になる運命だ」(128ページ)
竜とは最強の幻獣に対抗するための最強の兵器。愛する者を失うなどの強い絶望によって竜になると言われており、秋草はその候補で、小山はその餌。速水と舞も「竜と餌」とされている(つまり、「舞の手元にある”人中の竜”」(214ページ)とは速水のこと。ただし舞は自分が餌だとは知らない)。榊ガンパレでは登場しない。ゲーム版はラスボスとして登場する。
- 「背が二乗になると重量は三乗になる」(176ページ)
やや不正確な表現。背の高さがx倍になると、筋肉が生むことの出来るパワー(筋肉の断面積に比例)はx2倍になるのに対し、重量はx3倍になるため、負荷はx3/x2=x倍になる、という意味。
- 「ウサギの名はストライダー」(227ページ)
おそらく「式神の城」に登場するストライダー兎から。
- 東原ののみ(252ページ)
瀬戸口は戦争孤児であると説明しているが、彼女も速水同様のラボの被験者。瀬戸口も竜候補であり、彼女はその餌として小隊に配属されている(もっと詳しく言うと、ののみは瀬戸口が好きだった女性のクローンで、壬生屋はその女性の生まれ変わり)。
- 大木妹人(254ページ)
「絢爛舞踏祭」に登場するオーキ・マイト、「男子の本懐」に登場する同名の人物と同一人物。簡単に言うとガンパレの世界とこれらの世界は並行世界(厳密に言うと違うのだがその辺りは長くなるので省略)の関係にある。通常世界間を移動することはできないが、登場人物の中にはなんらかの方法で世界間を移動している者がおり、大木もその一人。ゲームや榊ガンパレには登場しない。
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2013-04-15
ようやく3巻が読めました。芝村先生の最新刊です。初夏からアフタヌーンでコミカライズされるそうですよ。
マージナル・オペレーション03
著者:芝村裕吏
レーベル:星海社FICTIONS
価格:1311円
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あらすじ
日本での戦いの後、アラタたちはタイに向かった。アラタはそこで、スラムの子供たちがやむを得ず傭兵になり、虐待されている現実を知る。そんな中、アラタはかつての同僚キシモトに再会する。その出会いから、今回の自分の敵は古巣―つまり以前勤務していた傭兵会社であることに気づくアラタ。かつての上司と連絡を取り、戦いを回避しようとするアラタだったが、アラタに個人的に恨みを抱くキシモトは会社を裏切り、アラタに私闘を挑む。手段を選ばないキシモトは、アラタの連れている子供に攻撃を仕掛けて―
感想
前回の予告通り、今回は人が死にます。しかもドラマチックな死に方ではなく、気がついたら死んでいたというあっさりした展開が、余計鬱にしてくれます。ソフィア(エルフ耳の少女)がかなり悲惨な目に遭ったりもするので、そう言うのが嫌いな人は要注意。
前回は割とアクションメインでしたが、今回は戦術・戦略メインのストーリーです。戦わなくていい相手とどう戦わないか、あるいは戦わざるを得ない相手とどう戦うか、という駆け引きが面白かったです。
またジブリールが自分の気持ちをハッキリ出すようになってきて可愛いんだこれが。とはいえ、三角関係を形成していたソフィアが戦線を離脱してしまったので、これから人間関係がどうなるかも気になります。またこれまでは小隊レベルだった戦闘描写も、次巻からは大規模になっていくような気もしますし、これからも楽しみです。
今後の展開ですが、6月に4巻、11月に5巻(最終巻)が出る予定だそうです。
ジブリールは少し考えたあと、憤然として僕の横を歩き出した。頭の位置が少し高い。数日で成長したのかと思ったら、背伸びをしている。
「普通に歩いてもいいんじゃないかな」
「よくわかりません」
「つま先で歩いているように見える」
ジブリールの背が縮んだ。なんだか不満そう。僕はジブリールの頭をなでて、背伸びなんかしないでいいんだよと言った。
※174~175ページより引用
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2013-01-02
舌の根も乾かぬうちに小説感想ですが、これ去年買ってた本だからセーフだよね。
この空のまもり
著者:芝村裕吏
レーベル:ハヤカワ文庫
あらすじ
今から少しだけ先の未来。AR(拡張現実。作中では「強化現実」と呼ばれる)が普及すると共に、不適切な情報を表示した「悪性タグ」が問題となっている時代。日本政府はこれに対して有効な対策を取らず、国を憂えた若者達は自警組織として「架空政府」「架空軍」をつくり出した。
主人公田中翼は、現実世界ではニートであるが、架空防衛大臣の職を預かっている。現在架空政府は、架空軍に所属する人々を動員して、日本中の悪性タグを(ハッキングによって)除去する、という一大作戦を実行。作戦は成功し、国民からの支持も上々だった。しかしやがてその動きは暴走を始め、外国人を排斥しようとする暴動へと発展してしまう。
責任を感じる翼。翼が信頼を置く老婆バーセイバー。小学生ながら架空軍に身を置く翔とその母美都子。翼の秘書の棘棗。近所に住む大学生の三浦。そして翼の幼なじみの七海。立場も年齢も違う登場人物達が、暴動をなんとかしようと動き出す。
感想
面白かったです。世界設定はロボノと非常に似ていますね。ロボノをプレイした時にも、タグの管理って誰がどうやってしてるんだろうとか、バーチャル上の落書問題はどうしてるんだろうということを思っていたんですけど、そういうARの負の側面をリアルに描いています。
登場人物は主にバーチャル上のキャラクターとして描かれていると共に、実際の世界で生活している様子もきちんと描かれていて、それがどうつながっているのかが徐々に明かされていくところがスピード感があってよかったです。そして最後に問題を解決した手段も、なかなか考えさせられる(それでいて現実離れしていない)もので感心しました。
また「本当の愛国心とは何か」という昨今注目されているテーマを扱った作品でもあります。
愛国心は……誰かを傷つけなくても存在を証明できる。
真なる日本とやらは、折目正しく助け合う秩序だったいつもの我々であることを。
※286ページより引用
芝村氏の作品も色々読んでいますが、その中でもかなり楽しめた小説でした。
ところで最後に登場した、「新田良太という日本人傭兵」ってもしかするとマージナル・オペレーションに登場したアラタのことですかね。ファンサービス…というかミスリーディングかな。
2012-12-02
最近連続して作品を出している芝村裕吏氏の小説「ガン・ブラッド・デイズ」を読みました。これ発行部数が少ないのか一般の本屋ではまず見かけないんですよね…電撃ゲーム文庫なのに。ただ理由は分かる。
※ゲーム一言日記
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あらすじ
時に西暦2025年。アメリカ地方新聞の記者イーヴァは、オルトロスという企業による独裁政権が築かれた日本に民主主義秩序を回復させるために派遣された米軍「セイバー」に同行していた。軍の話によれば、既に日本は制空権を失っており、上陸にはなんの問題も無い…ということだったが、突如飛来した大量のミサイルにより部隊は壊滅、イーヴァは生き残りとともに、オルトロスと戦う反政府組織「日本解放戦線」に拘束された。
日本解放戦線はイーヴァがジャーナリストと知ると身柄を解放し、取材の許可を与える。日本解放戦線によれば、オルトロスは選挙により選ばれたものの暴走し、圧政を敷いているのだという。少年兵のナミや郁男、名目的なリーダーの立場にある桜子と友好を深めていくイーヴァ。
しかし、ある時再び乗機が撃墜され、重傷を負った上に今度はオルトロスに拘束される。手当をしてくれたのは、オルトロスを支配する速長家の次男裕次郎だった。彼によれば、現在の政府は正当な政府であり、日本解放戦線は選挙に負けて暴徒化したテロリストに過ぎないらしい。どちらが真実なのかイーヴァには分からなかったが、なぜか裕次郎には惹かれるものがあった。しかしそれを危惧した裕次郎の妹いすずにより、半ば強制的に米軍の元に送り届けられることになる。
無事基地へ戻ったイーヴァだったが、テロリストに協力した容疑で逮捕されてしまう。厳しい取り調べを受け、アメリカ軍が日本解放戦線の真実を情報封鎖していることを知る。日本解放戦線が基地を襲撃した際に、それに乗じて再び日本解放戦線に身を寄せるが、そこに正体不明の通称「ゾンビ」と言われる謎の生命体が現れた。
感想
まずこの作品についてですが、ブラウザゲー「ガン・ブラッド・デイズ」を元にしたものです。といっても僕はゲームの方は詳しく知らないのでスルーします。
この小説は舞台設定の紹介というところですかね。上のあらすじを見てもらえば分かるとおり、セイバー、オルトロス、日本解放戦線それぞれの主義主張や、メインキャラクター達の人となりを軽く説明している作品です。これを読めばゲームがより楽しいかもねという感じ。
芝村氏の地の文でぐいぐい読ませる作風は健在なので、単発で読んでもそれなりに楽しめます。氏の作品にしては珍しく、世界観がわりと普通です。いわゆる近代戦争物。ですがあくまでゲームのおまけなのでそう割り切った方がよいでしょう。
主人公のイーヴァがめんどくさい女だというのが印象に残る作品でした。
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