2015-02-15
【小説】マグダラで眠れVI レビュー
本日帰ってきましたけど、新幹線が沿線火災で止まって大変でした。おかげでこの本を読み切れたのですが。
マグダラで眠れVI
ニールベルクでの騒動が一段落し、クースラ達はフェネシスの一族やオリハルコンについての情報を持っていると思われる異端審問官アブレアの足跡を追って、ヤーゾンという街にやってきていた。情報収集をしているうちに、ヤーゾンでは、「天使がもたらした灰をまくと、金銀が生まれ、それによってヤーゾンは建てられた」という伝承を知る一同。アブレアはその伝承にお墨付きを与えていたため、クースラ達はその線から調査を開始する。
折しもヤーゾンでは、城壁の中に澄む職人達と、城壁の外に住む硝子職人達とが、燃料となる森を巡って日に日に対立を深めていた。伝説の灰の情報を求めて入った薬種店で、クースラは店番をしていた少女ヘレナから硝子職人たちに宛てた手紙を託される。「街の人間が襲ってくるから逃げろ」…それは、硝子職人たちというより、彼女が親しくしている一人の青年リヒトに向けて書かれたものであることは明らかだった。
クースラは硝子職人達が伝説の灰に関する情報を持っていると聞いてそれを引き受けるが、得られたのはかつて伝説の灰をよみがえらせようとした硝子職人達が副産物として得た惚れ薬の情報だけだった。その情報を記した秘伝書の解読に取りかかるクースラ達。そんな中、リヒトがヘレナに会うために町中へ進入したことで騒ぎが起こる。そこに居合わせたクースラは否応なく騒ぎに巻き込まれていくのだが―
感想
いやはや今回も面白かったです。硝子職人達と街の職人達が燃料となる木材を巡って対立しているけど、硝子職人は南方の貴族の庇護を受けているので、事を荒立てるわけにはいかない、しかしこのままだと燃料を確保できる街の中にも凍死者が出る―というパワーバランスを軸に、ロミジュリ的な展開を絡めつつ、クースラとフェネシスの関係も進展させてきましたね。いつも思うけど支倉先生はこういう複数の話しをうまく絡ませて最後に一気に収束させるという話の展開がうまいんですよねぇ。
前巻でも言いましたけどクースラもずいぶん丸くなりました。自分が得るリターンとリスクをきっちり計算して、前者が上回らない限り手を出そうとしない彼が、まさか共感を理由にただ働き(まぁ実際には違いますが)をする日が来ようとは。1巻の頃には考えられなかったです。フェネシスも前回女を見せ、すっかりヒロインポジションを固めてしまいました。今回は「惚れ薬」が題材で、いくらでも二人の中を引っかき回せたと思うんですけど、それをあえてせず、最終的には惚れ薬なんて真の愛の前にはどーでもいいのさオチに持って行っているのはさすがだと思います。
でもクースラが夢よりも自分を選んでくれたことが前回明らかにしちゃったせいで、すっかりフェネシスの手玉に取られていて、もはや勝てるのが「大人の」話題だけというのはちょっと寂しい。これまで通りあたふたしているフェネシスも好きなので、もうちょっとクースラにはがんばって欲しいところです。そういえば前巻の終わりでは、ウェランドやイリーネがクースラ達と別れてしまうのではないかとちょっと心配していましたが、普通に珍道中ご一行でちょっとびっくりしました。深読みしすぎたか…
今回のネタについては作者の詳しい解説がありませんでしたが、おそらく伝説の灰というのは金や銀を灰吹法(融解した鉛に金鉱石などを投入し、不純物を鉛と一緒に酸化させて金などを取り出す精錬法)で精錬した場合に出る酸化鉛のことだと思います。酸化鉛を原料に混ぜて加熱することで硝子の融点が下がるのは割と昔から知られていることなので(確か現代でもクリスタルガラスはこの方法で作ってるはず)、多分間違いないかと。
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