問題:バームクーヘンを複数人で公正分割せよ。(バームクーヘンを選んだのは、僕が好 きだからではなく、ショートケーキやタルトに比べて公平に分けやすい、という理由にす ぎません。別にレアチーズケーキでもいいんですけど) 回答(例): 1.二人の場合  この場合は伝統的な"Divide & Choose"の方法を用いればよい。すなわち、一人が分割 し、もう一人が好きなほうを選択する。  なぜこれが公正な分割といえるかは、二つの点に基づくと私は考える。すなわち、   1)Dividerは自分で分割したのだから、どちらでも不満はない。   2)Chooserは自分で好きなほうを選択できるから不満はない。 という点である。実際に観察すれば、Chosserは自分の好きなほうを取ることで満足がえ られるのに対し、Dividerはなんとなく小さいほうを取らされたような気がして不満が残 るのもまた事実であるが、そのことはDividerとChooserを決めるときに考慮すべきことで あるので、ここでは問題視はしない。  したがって、上記二点を満たすような分割方法が公正分割であると定義し、これを踏ま えた上で、3人以上で分割する場合について論じてみたい。 2.三人以上の場合  問題を整理するためにまず3人の場合を考慮することにし、登場人物をA、B、Cとする。 @Dividerが一人、Chooserが二人いると考える  この方法は、まずAがDividerとなり、BとCがChooserとなる方法である。前提として、 あらかじめBとCの優先順位も決めておく(ここではBが優先することにする)。  最初にAが分割を行うのだが、一度に三分割してしまうと、BとCの選好が衝突する可能 性が高いので(それでも優先順位を決めている以上『公正』であるには違いないのだが、 より不公平感を削減する方法がある場合にはそれを用いるべきであろう)、三分の一だけ 切り出すほうが望ましい。AはそれをBに渡す。Bはそれでいいと思えばそれを受け取る。 よくないと思えばCに渡す。Cはそれでいいと思えば受け取り、よくないと思えばAが受け 取る。受け取った人はその場から離れ、残った三分の二をB(Bが場から離れていればC) が分割し、残った一人が好きなほうを取る。これで終わりである。  この方法は公正分割の条件を満たしている。すなわち、   1)Aは自分が三分の一だと思って切り出したのだから、それを受け取れようが受け 取れまいが不満はない。   2)B、Cは自分で好きなものを取れるのだから不満はない。 からである。  さらに付け加えるならば、最初に誰かが抜けてしまえば、後は"Divide & Choose"と同 様の状況になるので、公平であるといえる。ただし、やはり前述したように、Dividerよ りChooserの方が有利に感じ、Chooserの中でも優先順位が高いほうが有利に感じるのは事 実なので、"Divide & Choose"においては、最初により有利な地位にいた方にDividerをさ せるのが賢明であろう。ここまでに述べた方法はその条件も満たしている。  この方法の利点は、人数が何人になっても汎用的に使える、ということである。つまり 4人のときはDivider一人とChooserの順位を決め、Dividerが切り、順位の高いものからそ れを選ぶかどうかを決め、誰もいなければDividerがそれを取る。一人抜ければ後は3人の ときと同じようにすればよい。5人のときも同様である。  よって、この方法を美しくまとめるとこうなる。  バームクーヘンを円卓の中央に置く。円卓には優先順位の高いChooserから順番に時計 回りに着席し、最後にDividerが座る。Dividerはケーキを切り、左隣(選好順位が最も高 い者)に渡す。渡された人は欲しくないと思えばそれをどんどん左に送っていく。最終的 に皿は誰かが取るか、Dividerの元に戻るかすることになる。そうなったら、皿を持って いる者は円卓から抜け、ナイフはDividerの左隣にいるものに渡され、その者が新たなDiv iderとなり、同様の手順を繰り返す…  強いてこの方法の欠点を上げるとすれば、それは、少しずつ切り出していくというその 方法のために、一度に分割してしまう方法に比べて、偏りが生じやすい、というところに あると思う。最もそれは事実上の不公平であって、決して分割方法自体の不公平ではない のだが、その点を改善するための方法を以下で考えてみたい。 ADividerが二人、Chooserが一人いると考える。  この方法は少々複雑である。  まず、Aがケーキを三つに切り分ける。今回は一度に三分割する。Bはそれを見て、一番 大きいと思ったものを、二番目に大きいと思ったものと同じ大きさになるまで余分な部分 を切り取る(二つとも同じ大きさと思えば切らずにおく)。Cが3つの中から一番良い物を 選ぶ。Bはさっき切ったものが残っていればそれを、残っていなければ(あるいは切って いなければ)好きなものを選ぶ。Aが残りを取る。  この方法も公正分割の条件を満たしている。すなわち、  1−1)Aは自分で三分割しており、しかもBによって削られたもの(Aから見れば三分 の一より少なく見える)を取らされる可能性はないので不満はない。  1−2)Bは実質的に任意の二つについて"Divide & Choose"を行っていることになるの で不満はない。すなわち、Bは自分が最大にしたもののうちいずれか一つを獲得できるか らである。  2)Cは自分で好きなものを取れるのだから不満はない。  ただし、この方法については注意すべき点がある。すなわち、Bが切り取った余りの部 分の行方である。本来この方法を突き詰めていけば、余りの部分についても役割を入れ替 えて同様の方法で三分割するべきなのであろうが、それだと分割が延々と繰り返されるこ とになり、『公正』を目指す余り『分割』がなされないという本末転倒な状況に陥ってし まう。そこで、多少の不公平には目をつぶり、近似的に三分割をすべきであろう。すなわ ち、事実上最も有利なChooser立場にいたCが分割し、最も不利なDividerの立場にいたAが 選び、次にBが選び、残りをCがとる。これで終わりである。  ただ、この方法の利点は、前述した通り分割が最もやりやすいという事実上のものにと どまるように思える。反対に致命的な欠点は、人数が増えるにしたがってますます手順が 複雑になる点にある。実質的には4人以上でも可能だが(Aが四分割する。Bが一番大きい ものと二番目に大きいものを、三番目に大きいものと同じ大きさになるように切る。Cが 一番大きいものを二番目に大きいものと同じ大きさになるように切る。Dが選ぶ。Cが選ぶ が、自分が切ったものが残っていればそれを取る。Bが選ぶが、自分が切ったものが残っ ていればそれを取る。Aが残りを取る)、発生する余りの部分が加速度的に増えていく (n人で分割すれば発生する余りの最大は(n-1)(n-2)/2となる)ため、その処理が極めて 煩雑になる。そのため、実効性があるのはせいぜい3〜4人までであろう。 以上